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チベット家具にみるアート
チベット家具のデザインは遊牧民から始まっており、一般的に所有や裕福であることにはあまり関心がない遊牧民にとって、軽くて携帯性の高い家財道具がもっとも生活に適したものでした。テント内での家具は、ラグやマット上で生活に適した皮製か木製の小型トランク、低めの折りたたみ机など。これらの家具は、デザインをさほど変えないまま、一般のチベット家具へと発展していきました。
現在、世界で流通しているアンティークのチベット家具のほとんどは、遊牧民が使用したものではなく、僧院もしくは一般の家庭で使用されていたもので、より大型化の傾向が見られます。
チベットにおける装飾モチーフに、チベット仏教とのかかわりは欠かせません。例えば、エンドレス・ノット、蓮の花、バジュラ(金剛杵)、法輪、宝物などは特に知られた宗教シンボルで、仏教の教えとともに伝わったものもあれば、仏教伝来前に何千年も存在し続けているものに新しい解釈が加えられたシンボルもあります。
例えば、「法輪」はインドに仏教以前にも存在しており、仏教が広まった後には、「ブッダと彼の教え」を意味するモチーフとして用いられています。また、仏教の流入に伴い、インド、ネパール、カシミールから優秀なアーティストたちが訪れたため、チベット人がパトロンとなって、彼らのアートを寺の壁画や装飾として積極的に寄進したといわれています。
チベットは高度が3000mを越える高い地域が多いため、現在でも家具の材料となる木材は非常に貴重に扱われています。おもに「松」が使われていますが、松は比較的、柔らかい木材です。その理由は、チベットでは気候や高度等の理由で硬い木材はほとんど生えていないためで、硬質の木材が使われることはほとんどありません。
ちなみに、土地が肥沃な東チベットでは、木材の入手が他の地域に比べて容易だったせいか、チェストなど一般的に重くて大きい家具が多く製造されていました。しかし、他の地域では良質な木材の入手が厳しかったため、家具を補強するために動物の皮や布地などもあわせて使用されました。側面や内側は刀で削った跡が残っていたりするなど、あまり完成度はあまり気にされなかったようです。
また、チベット家具はその表面に施された装飾がアートとして高く評価されていますが、装飾には、各地方でとれる鉱石などを用いた天然顔料などによる塗料のほか、うるし、ニカワを混ぜ合わせた金箔(英:gesso)を使って、ほぼ全面に装飾を施します。20世紀に入ってからは、顔料がより手に入りやすくなったことで、装飾はより明るい彩色になっていきます。
緑色:マラカイト(孔雀石)、濃青/青緑:アズライト(藍銅鉱)、濃赤:シナバー(辰砂)、オレンジ:リアルガー(鶏冠石)、黄色:オーピメント(石黄)、白:チョーク(石灰)、黒:煤(すす)
修理に使う木材は、世代を越えてもなお保存され、何度も再利用されます。家具の内側に装飾画が描かれていることがありますが、これは破損したり、古くなったりした箇所を、他の家具に使われていた板や木材を再利用して修繕した形跡で、他の家具のパーツが使われることも珍しいことではありません。なお、修繕には皮ヒモなど木材以外も用いられ、装飾をかねて、家具の強化のために鉄の装飾具も頻繁に使用されます。